
前回↑この記事で検証した、「湯種と湯ゲル」の違い。
個人的に、味に違いは感じなかったものの、”ヒキの強さ”と”水分感”、この二つに関しては明らかに異なる結果となりました。
- 湯種食パンにヒキの強さを感じず、湯ゲル食パンにヒキの強さを感じた
- 同じ加水率でも、湯種生地にはべたつきを感じず、湯ゲル生地にはべたつきを感じた
この2つについて、さらに深堀して素人なりにまとめてみました。
科学的な視点から自分なりに整理した内容ですが、私は研究者でも製パン職人でもないため、間違いが含まれるかもしれません。
あくまで自己満足の考察としてお読みいただければ幸いです。
ヒキの強さは「酵素の存在」?
そもそも、粉と水が混ざった時点でグルテンが形成されますが、そのグルテンの量が多いほど、パンのヒキは強くなるのです。グルテンが少ないと、ヒキが弱く(=歯切れがよく)なります。
そして、小麦粉に含まれる酵素の存在もまた、このグルテンがつながる作用に関係しているらしいのです。
小麦粉に含まれる酵素には、「アミラーゼ(デンプンを糖に分解する)」と「プロテアーゼ(タンパク質を分解しグルテンの骨格を適度に遮断・生地の伸びをよくする)」という2つに分かれます。
デンプン担当とタンパク質担当がいるということです。
このタンパク質担当の「プロテアーゼ」は、グルテンの骨格を適度に分解する作用があります。この作用がほどよいと、生地にも程よい弾力・ヒキが残りパンらしいもちもち感が生まれます。
”骨格を分解”する作用があるのに、なぜヒキが強くなるのか。
これは単に”骨格が切れる”だけではなく、「適度に切断されることで、より強固なグルテンの網目構造が再構築されるから」。
小麦粉と水が混ざって形成されたグルテンの状態を「ぐちゃぐちゃに絡まった糸」とイメージしてみましょう。
この状態だと一部に力が集まるとプツンと切れやすく、構造にムラがある状態なんです。
そこで、酵素の「プロテアーゼ」が適度に働くことで、絡まりすぎた部分をほどよくほぐしていきます。
絡まった糸が適度にほぐれることで、グルテンは綺麗に並び直し、「より丈夫なシート」のような構造になるのです。そして、この整列した構造が、パンを噛んだ時の、弾力・ヒキを生み出すのです。
このパンのヒキの正体は、”元に戻ろうとする力”。でもこの力は、「伸縮性(伸びる力)」がないと十分に発揮されません。
ではここで、固すぎるゴムをイメージしてみます。
このゴムは伸びないのですぐに切れてしまいます。これは、パンで言うとヒキを感じる前に切れるのでヒキが弱い、歯切れがいい、ということ。
でも、やわらかいゴムなら、びよーんと伸びる余裕があるため、限界まで引き延ばした時に元に戻ろうとする反発力が生まれます。これが、パンでいうヒキの強さなんです。
ではこれらを踏まえたうえで、なぜ「湯種」よりも「湯ゲル」のほうがヒキが強くなったと感じたのか。それは「酵素が働いているか、働いていないか」の違いにあるのではないでしょうか!
もういちど湯種と湯ゲルの作り方の特徴を思い出してみると、湯ゲルというのは、酵素の働きを残したまま糊化したもの、でしたよね。
つまり湯ゲルの中にはタンパク質を分解しグルテンの骨格を適度に遮断・生地の伸びをよくするプロテアーゼ(酵素)が働いている状態、ということになります。
一方で湯種は、粉に沸騰した熱湯を加えて混ぜるため、高温によって酵素は失活してしまいます。つまり高温で作った湯種は、このプロテアーゼが働いていない状態ということ。
そのため、プロテアーゼが働いていない湯種の中のグルテンは「加熱して固まったゴム」のような状態になり、その結果、本生地に混ぜてもそのゴムは伸び縮みせず、周りの生地ともうまくつながりません。なので食べたときには、糊化によってもちもちとした弾力はあるものの、ヒキは弱く、歯切れの良い食感になるのです。
湯ゲルは酵素(プロテアーゼ)が働いてくれている状態であり、そのおかげで絡まったグルテンを程よく解いてくれます。
湯ゲルの中には「しなやかに伸びるゴム」がすでに準備されている状態なのです。
つまり、湯ゲル食パンにヒキの強さを感じる結果になった理由は、
この湯ゲルの中にすでにある伸びるゴムが本生地のグルテンとつながることで、生地全体が良く伸びて、戻る力(ヒキの強さ)を持つようになります。これが食べたときに感じたヒキの強さとして出たのではないでしょうか。
同じ加水率なのにべたつき方が違うのは「水の自由度」の違い?
同じ加水率で作っているのに、湯ゲルのほうが「高加水っぽさ」「ベタつく」と感じたのは、“水の量”ではなく、水の存在のしかたが違うから?
まず、小麦粉に水を加えると、「水和(すいわ)」が起こります。これは、小麦粉が水分を吸い、デンプンやタンパク質に水が吸着する現象です。この水和によってグルテンが形成されることでパン生地に骨格が作られ、しっとりした食感にもつながります。
そして水和した水はその後、生地の中で2種類に分かれます。
それが「結合水」と「自由水」です。まずはこの二つの違いから見ていきます。
結合水
- 小麦粉の成分と強く結びつき、動けない水
-
分子に固定されているので移動できない
-
表面に出てこない
-
手で触ってもベタつきを感じにくい
-
生地の内部に閉じ込められている
- 0℃になっても凍らない
- 100℃でも蒸発しにくい
しっかり水和が進んだ生地は、粉が水分をしっかり抱え込むことで結合水として定着します。
この結合水は蒸発しにくいため、焼きあがった後も水分が逃げずしっとり感が持続します。
簡単に言うと、パン生地の中にこの結合水が多いほど、しっとりしたパンになるということですね。
自由水
- どこにも強く結びつかず、自由に動ける水
- 生地の中を移動する
- 生地の表面に出てくる
- 手に付く
- ベタつきや水っぽさの原因になる
- 0℃で凍り100℃で水蒸気になる
水和が不十分だと、粉が水分を抱えきれず、生地の中に自由水として残ってしまいます。
この自由水は、粉と結びつかずに生地のなかで浮いているような状態なので、手で触るとべたつきを感じます。
また、蒸発しにくい結合水とは違って、自由水は焼成の熱で蒸発して逃げてしまうので、結果、焼きあがったパンは水分量が減りパサつきやすい・硬い食感になってしまいます。
湯種生地がベタつきにくい理由
粉に熱湯を加えることによってデンプンを糊化(α化)させたものを湯種といいます。
糊化したデンプンは大きく膨らみ、水分を内部に抱え込みます。
その水分はデンプンとしっかり結びついているため、「結合水」として固定されます。
湯種を使ったパン生地に水分を多く入れられるのは、結合水の多い湯種のおかげということ。
加水率としては高加水でも、結合水が多いやめ、べたつきを感じにくくなるのです。
湯ゲル生地がベタついた理由
湯ゲルも湯種と同様にデンプンを糊化(α化)させたものですよね。ということは、結合水が増えるという意味では同じはずです。
ではなぜ湯ゲルを入れた生地のほうがべたついたのでしょうか…。
湯種と湯ゲル、わかりやすい違いと言えば、粉に対する水の量です。
湯種は粉1に対して水1~2、湯ゲルは粉1に対して水5。
湯ゲルのほうが水の比率が高い状態です。
湯種も湯ゲルも、デンプンを糊化させて水分を抱え込んでいるのは同じですが、湯ゲルは粉に対して水が多いため、糊化したデンプンはこの水全てを固定しきれないのかもしれません。その結果、結合水だけではなく、動きやすい自由水も残ってしまうのではないでしょうか。
自由水も含んでいる湯ゲルをパン生地にいれることで、生地全体にも広がるため、それが生地のべたつきにつながってしまったのではないかと推測します。
もしくは、湯ゲルの粉に対しての水分量が多いために、デンプンの網目構造の中で水が動きやすく、それが自由水のような形になっているのかも?
糊化したことで結合水が増えたとても、同時に、抱え込み切れなかった自由水も存在してしまっていれば、べたつきの正体になり得るのではないでしょうか。
そしてもう一つ、湯ゲルは「酵素が働いている状態である」という大きな特徴がありましたよね。
ヒキの強さの関係でも触れた、この酵素の存在。
この酵素には、「アミラーゼ(デンプンを糖に分解する)」が含まれます。
デンプンを糖に分解するアミラーゼの作用が働いている湯ゲルは、一晩寝かしている間にも、パンを作ってる最中にも、糖に分解され続けていくといわれています。
酵素が失活している可能性のある湯種を入れた生地に比べて、酵素が働いて糖化が進んでいる湯ゲルを入れた生地のほうが、糖は多く含まれていることになります。
この糖化のおかげで、パン生地に甘みや旨味が増し、保湿性や、焼き色が濃くなるといった効果がありますが、糖が多くなるほと生地のべたつきやすさにもつながります。
通常、糖分を多く配合したパン生地は、しっとり保湿性の高いパンになります。これは親水性といって、砂糖には水をよく吸う(砂糖は水に溶ける)性質があり、本来なら粉が吸うはずだった水分も砂糖が奪っている→焼きあがった後も砂糖が水分を保持してくれている→そのおかげで時間が経ってもパンのしっとり感が持続する、という仕組みです。
この現象は砂糖だけではなく、糖なら共通して起こる現象みたいです。
(この現象の強さは、糖の種類や分子の大きさ、保水性に左右される)
つまり、
湯ゲル→アミラーゼの働きによって糖が増え続ける→生地のべたつきにつながる
のでは?という考察です。糖が増えるといってもおそらく無限に増えるわけでもないだろうし、増えるのはきっと数%くらいの違いかもしれませんが、湯種と湯ゲルで酵素が失活しているか働ているかの違いが明確だったならば、たった数%の差でもパン生地にも影響する可能性は否めないはず。
まとめ
| 湯種 | 湯ゲル | |
|---|---|---|
| 水の状態 | 結合水が多い | 自由水が多い |
| 水の動き | 動けない | 動きやすい |
| 触感 | まとまりやすい | ベタつきやすい |
| 生地の状態 | 締まりやすい | 緩みやすい |
| 食感 | しっとり・もっちり・ヒキ弱い | しっとり・柔らかい・ヒキ強い |
| グルテンの状態 | 一部変性している | 酵素で緩みやすい |
| 特徴 | 水を閉じ込める | 水が自由に動きやすい |
| 酵素の状態 | 酵素が失活している | 酵素が失活していない |
| 糖化 | 糖化が起きない | 糖化が進む |
| 生地のべたつき | べたつかない |
糖が増えるのでべたつく |
総加水率が同じでも、“自由に動ける水”の量が違うことで、生地の触感(べたつきやすさ)が大きく変わったのかもしれません。
湯種と湯ゲルで生地の性質が大きく変わるのは
「水がどれだけ自由に動けるか」が違うから。
という、あくまで自分の考察ですが、そういう可能性があるのではという結果になりました。