
こんばんは、らむずんです。
皆さんは、「湯ゲル」という製法を聞いたことがありますか?
湯種が「弾力のある塊」なのに対して、湯ゲルはドロドロした「ペースト状」のもの。
私はこれまでモチモチ・しっとりなパンを作りたいときは、湯種製法で十分満足していたこともあり、なんとなく挑戦せずにいた湯ゲル。
そこで今回は実際に「湯ゲル」で食パンを焼き、「普通の食パン」や「湯種食パン」と比べて、生地の扱いやすさ・食感にどんな違いが出るのかを検証してみました。
粉と水を加熱し糊化させるという点では、湯種とほぼ同じらしいのですが、この緩さや状態が違うことで、パンにどんな差が出るのか確かめてみます。
その結果を、私なりの感覚的な備忘録としてまとめていきます。
「湯種と湯ゲル」の違いとは?
湯種も湯ゲルも、粉と水を加熱し糊化させるという原理は同じですが、作り方とその状態は異なります。まずはこの違いについて整理しておきます。
湯種の特徴
- 湯種:粉に熱湯を加えて混ぜたもの。餅のように伸びる弾力のある塊。
- 材料:粉1に対して水1~2
温度を下げないように、粉に75℃以上の熱湯を加え一気に混ぜることで、粉のデンプンをしっかりと糊化(α化)させます。こうして作られた湯種は、餅のように伸びる弾力のある状態になります。
メリット
- もちもち食感
- しっとり感
- 老化が遅く日持ちする
- 高加水パンが作れる
熱湯で十分に糊化させることで、ふつうの製法では出せないもちもちとした弾力が生まれます。一般的に、10%~30%の湯種を使いますが、これが多いほどモチモチになります。
湯種が抱え込んだ水分は逃げにくく、翌日になってもしっとり感が持続するので、パンの老化の遅さも湯種製法の大きなメリット。
デメリット
- 手間がかかる
- 生地が伸びにくい
- 重たい食感になる
- パンのボリュームが小さくなる
普通に作るよりも、湯種を作る工程が増えるという意味では、手間がかかってしまうことになります。そして湯種を多く配合すればするほど、もちもち感が強まる反面、ボリュームが出ない・重たい食感になり、生地の扱いにくさ・作業性の悪さにもつながるので、多く入れれば入れるほどいい、というものでもないのです。
湯ゲルの特徴
- 湯ゲル:粉と水を混ぜながら加熱(60℃まで)。ツヤのあるペースト状。
- 材料:粉1に対して水5
粉と水を火にかけ加熱し糊化させ、とろみのあるベースト状にしたものを湯ゲルといいます。このとき、温度が60℃を超えないように加熱させるのがポイントです。
小麦粉に含まれる酵素(アミラーゼ)は、デンプンを分解して糖に変える性質を持っています。この酵素が最も活発に働く温度帯である60℃~70℃で加熱を止めることで、デンプンを糊化させつつも、酵素の働きを失わせない絶妙な状態を作り出すことができるのです。70度を超えると、この酵素は失活します。
つまり、糖(甘み)や旨味を作り出す酵素の働きを残したまま糊化させたものを湯ゲルというわけです。
ちなみに寝かせる必要性は?
湯種も湯ゲルも作ったあとは冷蔵庫で一晩ほど寝かせるのが一般的のようですが、本当に寝かせる必要があるのかという疑問。寝かせる理由としては、熱々のまま使うとイーストが死滅するから・寝かせることで熟成が進み甘みが増すから、というのが主な理由みたいです。前者に関してだけでいえば、冷めれば使えるということですし、特に寝かせる必要はないですよね。
そして、もうひとつの寝かせる=熟成させる、というのは酵素が関係しているのだと思います。湯ゲルのように酵素を失わないように作ったものは、一晩置いてる間にも、パンを作ってる最中にも、糖に分解され続けるといわれています。
ということは、湯ゲルはもちろん、湯種も完全に酵素が失われないように作ったものならば、寝かせることで甘みに変わっていくということ。
つまり、冷めた時点で使うことはできるが、寝かせることで得られるメリットもちゃんとあるんだよ、ということ。そこまでこだわらないなら、寝かせなくてもいいと思います。
湯ゲルの材料
湯ゲルの材料
- 強力粉:24g(10%)
- 水:120g(50%)
湯ゲルの作り方
❶小鍋に、強力粉と水を入れて粉気がなくなるまで混ぜる。

❷弱火にかけ、よく混ぜながら加熱する
❸しばらく混ぜていると、つやが出てとろみがついてくる。60℃を超えないように火から離す。(温度計があれば計りながら)

❹別の容器に移して、粗熱を取ってからラップをして冷蔵庫で一晩寝かせる。
(今回は冷蔵庫で1時間しか寝かしていません)

食パンの材料
本生地の材料
- 強力粉:216g(90%)
- 牛乳:94g(35%)
- 砂糖:19g(8%)
- 塩:4g(1.6%)
- ドライイースト:2g
- 無塩バター:19g(8%)
食パンの作り方
- バター以外の材料と湯ゲルを入れこねる
- バターを入れこねる
- 一次発酵30℃60分~
- ベンチ15分
- 成型
- 二次発酵30℃30分~
- 焼成180℃30分(200℃予熱)
比較条件
わたしが普段作る湯種食パンの湯種は、
- 粉は全体の20%、水は粉の1.5倍ほどで加水全体の30%
- 一晩寝かせたもの
今回の湯ゲルは、
- 粉は全体の10%、水は粉の5倍で加水全体の50%
- 急遽作ったので1時間だけ寝かせました
どちらも角食パンで比較し、
型比容積は3.6くらい、
加水率は86%。
200℃に予熱したオーブンで180℃30分焼成(焼成率10%を目指す)という条件は同じ。
ですが完璧な比較ではなく、本当に感覚的で記憶を辿りながらの実験になります。2種類同時に焼いたり、もっと実験的にやってみたいのですが、私の技術力と設備が追い付かないので…
湿度、生地温度、こね上げ温度等は測っていませんし、湯種作り・湯ゲル作りの段階での水分の飛び方とかも違うと思うので、加水率も若干は変わっている可能性もあります。正真正銘の感覚なのでその点ご了承を。
結果
湯ゲル作りのメリット
- 湯種よりも洗い物が楽
- 失敗しにくい
湯種を作ることもそれほど難しくないのですが、湯ゲルの方が圧倒的に作りやすく、失敗もしにくいと感じました。
湯種の場合、熱湯を入れてからのスピード勝負だったり、水分量の加減でベチャベチャになったり、ダマができやすかったりと、初心者には少し難易度が高い一面があります。
その点、湯ゲルはとてもシンプル。
ただ混ぜ続けて、ドロッとしてきたらそこで工程が完結します。
特に見た目の変化が劇的なので、「あ、今ここで終わりだ」というタイミングがすごく分かりやすかったです。温度が高くなりすぎないように(60度以上)だけ気をつければいいだけなので、驚くほど簡単。
「ドロッとしてきたら終了」という変化のわかりやすさは、作る側にとって一番の安心材料ですよね。
そしてもう一つ。最初から最後まで、ひとつの小鍋(またはフライパン)で完結すること。
湯種って、ちゃんと作ろうとすると、湯を沸かして、別の容器に入った粉に熱湯を注ぎ、混ぜて、こねる。
一方、湯ゲルはひとつの小鍋のなかに水と粉を入れて、火をつけてしばらくクルクル混ぜるだけ。
これの何がいいかって、洗い物がラク!
湯種はあっという間に糊化するのでボウルにへばり付いて、時間が経って乾くと余計にくっついてしまい道具も多いし洗うのも面倒。
湯ゲルはペースト状なので嫌なひっつきもなし、道具も少なく、すぐに洗える。
すでにこの時点で、かなり湯ゲルに惹かれています。
こね作業の変化
- 生地になじみやすい
- 高加水さを感じるべたつき
- 生地は緩く柔らかい
- 手ごねは大変そう
湯ゲルはペースト状なので、お餅のような塊の湯種に比べて、生地にすぐ馴染みます。
固形に近い湯種を混ぜる時は、生地の中でダマにならないよう一体化させるのに少し時間がかかりますが、湯ゲルはツヤのあるペースト状。本ごねの生地に加えた瞬間、まるでクリームを練り込むようにスッと馴染んでいきました。
ただ、私はホームベーカリーでこねをまかせています。途中で止めて生地を触ってみましたが、「湯種なしの普通のパン生地」と「湯種ありのパン生地」に比べると、今回の湯ゲル生地には少しベタつきがありました。
手ごねだと、初心者には少し苦戦しそうな感じです。
普段使っている湯種生地と今回の湯ゲル生地、ほぼ同じ加水率にしたのですが、どちらも少しはベタつきますが(湯種の配合、加水率にもよるが、私の普段の場合)ベタつき方が若干違うように感じました。
同じ水分量なのに、湯ゲル生地の方が、より水分の多さを感じるような、ザ・高加水なベタつき方。
湯種生地と湯ゲル生地のベタつき方の差をわかりやすくいうなら、湯種生地の方が「ちょっと嫌なベタつき方」という感じでしょうか。
手ごねなら、もうすこし加水を減らしたほうが作業しやすいかも。
機械ごねなら、難なくこねられます。
生地の触り心地
- 生地が柔らかい
- 緩い
- 水分を感じる

湯種生地よりも、湯ゲル生地のほうが、とても柔らかいです。とてもしっとり、やわやわ、トロトロ(?)水分を感じるツヤ感。
明らかに湯種生地とは別物でした。
中種で仕込んだ生地の柔らかさに似てます。(中種はこれにフワフワを足した感じ)
湯種生地は、しっとりしているものの、もっと全体的に締まった感じがあります。
こねの段階でのベタつきは、一次発酵後も成形時も相変わらず、「高加水生地だなあ」と思うくらいのベタつきです。
ドロドロはしておらず、しっとりしなやかで柔らかい感じ。ですがこのベタつきは手粉をすれば問題ないです。
湯種生地よりも、水分を感じる生地でした。
一次発酵後の生地の触り心地は、言葉で表現するなら「エアリー感」。
湯種生地はもっと締まっていて緩みにくいので、生地が傷つきやすい気がします。成形するときもあまり張らせないように気をつけるくらいの締まり方ですが、逆に
湯ゲル生地は緩く柔らかすぎることで、成型しにくさはありました。手早く作業すれば問題なし。
発酵の変化
- 発酵が速いと感じた

一次発酵のときの差はあまり感じなかったですが、型に入れてからの二次発酵終了のタイミングがいつもより早いと思いました。10分くらいは速い段階で、型の8~9割の高さに。
湯種なしストレート・湯種あり、どちらよりも早かったです。気づいたら型のスレスレまで高さが来ていて焦ったくらい。
湯種生地は締まりやすく弾力があるので、見た目の膨らみ方が遅い。反対に湯ゲル生地は緩く膨らみを阻害するものがない=膨らみがいい、ということも理由の一つかなと思います。
それと、酵素が失活していない湯ゲルを使うことで糖が増えたことも発酵スピードが上がった理由の一つかもしれません。
パンの出来(見た目)
- しっかり伸びてる
- 焼き色も綺麗
- クラストがしっかりしている
- 側面柔らかく、若干腰折れ
- クラムの潤い感

発酵完了のタイミングが速かったので、予熱が間に合わず少しカクカクになってしまいました。見た目は湯種食パンとも普通の食パンとも、大差ない感じです。
パンの耳の部分は、コツコツと鳴るくらい若干ですが硬めに焼きあがった気がします。でも焼きすぎたというわけではないです。焼成率も湯種食パンと同じくらい(10%ちょい)でした。少し腰折れした程度ですが、湯ゲルの場合もう少し焼いてもいいかもです。
成型時、生地が非常に柔らかかったです。そして手粉は必須。巻き目の部分をみると苦戦したことが分かると思います。丸め成型でもいいかもしれません。

切った断面は、湯種食パン同様、水分できらきらしていて潤いを感じます。
湯種の断面↓

湯ゲルの断面↓

大きな違いはなし。
パンの出来(味・食感)
- おいしい
- パンの耳は薄いわりにしっかり目のパリッと感
- 次の日も柔らかいまま
- ヒキが強い、結構強い
- もちもちはしていない
- しっとり
- 味や風味は、湯種と変わらない
- おいしい
美味しさ満点。味や風味に関しては、湯種食パンと湯ゲル食パン、どちらもとくに変わりませんでした。変わらずおいしい、という結果です。
ただ、今回は湯ゲルを寝かす工程を飛ばしているので、もしかしたら一晩熟成することで、湯種よりも甘みを増すことができるかもです。伸びしろはあり、ということですね。
そして、湯種パン最大の特徴である「もちもち」は、湯ゲルパンでは感じませんでした。白パンのように低温で焼いたり、ベーグルのようにケトリングして焼いたりするなら、もちもち感が出るかもしれませんが、しっかり焼いている食パンでは感じませんでした。
その分、すごくしっとりしています。でも湯種食パンも同じようにしっとりしているので、あまり変わらないかも。
ですが、湯種食パンとは明らかに違う点も、しっかりとありました。
いちばん驚いたのが、ヒキの強さです。断面を指で押すとすっごく柔らかいし、耳の部分を押さえるとふわんふわんな感じがよくわかり、これは相当柔らかいんだろうなと思うほどでしたが、食べてみると、めちゃくちゃヒキがありました。
私がイメージするやわやわなパン=歯切れもいい、と思ってたので、このギャップには驚きました。
決して固いわけではなく、パンの食感と言えばこのヒキの強さがいいんだよね!というひともいるだろうし、いやいやパンは歯切れのいい柔らかさのほうが好き!という人もいると思います。
ヒキが弱い=歯切れのよさ。逆にヒキが強い=歯切れの悪さとも言えます。
イメージだけで言えばペースト状の湯ゲルより、餅みたいな湯種のほうが歯切れ悪そうな感じがしませんか?このヒキの違い、ちょっと気になったので考察してみました。
楽しくなってしまい長くなったので別の記事にします。
↓興味のある方は読んでみてください!
個人的に思う湯種と湯ゲルの使い分け
湯ゲルが向いているパン
- あえてミキシングをしない高加水パン
ペースト状の湯ゲルは生地に混ぜ込みやすいので、あえて捏ねずにパンチなどでつなげる高加水パンなどは、ダマになりやすい湯種よりも、湯ゲルのほうが向いていると思います。
- 窯伸び・ボリューム・軽さが欲しいパン
作業性を下げずに加水を増やしたいとき。湯種を入れると、重さやボリュームに欠け噛み応えのあるパンになります。湯ゲルなら、高加水ながらしっかり伸びて膨らみ、ボリュームのあるパンが焼けます。
- パンらしいソフト感が欲しい
湯種でも10%前後ほどの配合であれば、もちもちよりもしっとり柔らかさを出すことができますが、湯ゲルでのほうがさらにしっとり感やソフト感が期待できます。
湯種が向いているパン
- もちもち感が欲しい
これはもう湯種一択です。しっかりモッチリさせたいなら20~30%の湯種で叶います。ですが、多く入れるほどパンらしさのある軽いソフト感やボリュームは失われ、重い食感のパンになります。
- 生地が扱いやすい
湯種を入れた生地は締まりやすいので、緩みやすい湯ゲル生地よりも、作業しやすいです。たくさん加水を上げたいけどパン作りに慣れていない、という場合は湯種のほうがいいと思いました。扱いやすさはありますが、配合によっては生地が傷つきやすいこともあります。
まとめ
「湯種」と「湯ゲル」。単なる呼び方の違いではなく、科学的なアプローチの違いから、パンに出る効果や特徴も変わってくるんだなという、当たり前ですがそんなことを思った検証結果でした。科学ですね~面白い。